本物の価値

人工の宝石、例えばサファイアを造ろうと思えば、
製造される全てのサファイアを
インクルージョン(内部に含まれる小さな傷や別の物質)が無い、
天然のサファイアよりクリアで完璧なものを、
当たり外れなく大量に製造することができます。

一方で天然のサファイアには、必ずインクルージョンが含まれています。
しかも産出するサファイアの中で宝石としての評価が高いものは、
ほんの少数に過ぎないのです。

それでも人工ではなく天然の宝石が望まれるのは、
人々が人工と天然の間に、
大きな価値の差を感じているからに他なりません。

……

少し前、メロディーや歌詞を
自動的に作るプログラムというのがありました。

それがなかなかの出来で、
「プロ」が作ったような楽曲がポンポンと出来上がります。

人が「考える」という行為を数値化したプログラムですから、
まさに理想的なメロディーと歌詞というか、
理論を正確になぞった完璧な歌ができるわけです。

採点すれば100点満点でしょう。

でも感動する歌ではありませんでした。
心地よい歌でしたが、その存在さえもすぐに忘れてしまいました。

それは「考えて」造られた歌だからかもしれません。

……

人が心のままに歌を創れば、たくさんの失敗もあるでしょう。

機械で造ったり、機械のように「考えて」造れば、
そんな失敗もわずかに誤差の範囲なのでしょうけど。

でも、人が何かを感じて、何かを思って、何かを伝えようとして、
心から沸き上がる歌詞とメロディーによって出来上がったものこそが、
奇跡を起こす歌なのだと、私は確信しています。

歌は「上手く作ろう」と思った瞬間から、つまらないものになります。

機械には決して越えられないもの。
数値化することも、他の作品と優劣を比べることもできないもの。

私は、ずっと、ずっと、いつまでも、
ただ、ただ一心に、
そんな歌を歌えるアーティストの成長を心から待ち望んでいます。